snowinbowls’s blog

日本のすみっこぐらし。映画は公開日に上映されないし本は発売日に本屋さんに並びません。

裸から始める断捨離生活 映画『100日間のシンプルライフ』感想 *ネタバレあり

 

 

『100日間のシンプルライフ』(100 Dinge)2018年 ドイツ 111分

監督・脚本 フロリアン・ダーヴィト・フィッツ

出演者/役名 フロリアン・ダーヴィト・フィッツ/パウル・コナスキー

       マティアス・シュヴァイクホファー/トニー・カッツ

       ミリアム・シュタイン/ルーシー

       ハンネローレ・エルスナー/レナーテ・コナスキー

       ヴォルフガング・シュトゥンフ/ヴォルフガング・コナスキー

       カタリナ・タルバッハ/オマ・コナスキー

 

 

断捨離がしたい。ミニマリストになりたいとまではいかないけれど、視界にごちゃごちゃしたものが映らないすっきりとした部屋に住みたい。そう思いながら何ヶ月、いや何年が経ったのだろう。できない自分が情けない。

ミニマリストという言葉を知った頃にこの映画のことも知ったが、行ける範囲の映画館では上映されなかった。

それを最近たまたまレンタル店で見つけた。この映画を見れば片付けがしたくなるのではないかという淡い期待もあった。

しかしこの映画は、部屋の中にある物の手放しかたが普通ではなかった。なんだそれは。反則だ。

大勢の社員たちの前での見栄の張り合い、喧嘩の末に社員達に身包み剥がされ裸ひとつで自室に放り込まれるパウルとトニー。こんな強引な方法をやってくれる知り合いもいないし、して欲しくない。健康な青年男子ではなかったら病気になってしまうだろう。冬だし。

 

最初の頃は何日目かのカウントもあり、裸一貫からどんな風に生活するのかが描かれるが、一週間ほどで経過不明になる。そうだ、これはミニマリストになるための映画ではないのだった。身につける物が減って本当の自分と向き合わざるをえなくなり、家族や恋人、仕事が2人の生き方を変える要因となっていく。

 

パウルには祖母と両親がおり、愛されて育ったことが伝わってくる。幼なじみのトニーは自分の家族にはあまり恵まれていないようだ。パウルの母親レナーテはそんなトニーを気にかけてきたのだろう。なにかと衝突する2人は側から見ると小さな子どものようだ。100日間の賭けも、子どもの意地の張り合いにしか見えない。この2人、ばっかだな〜と思いながら前半を鑑賞していたが、途中でいくつかのシリアスな出来事があり、その流れが変わってくる。

戦争時代を生きた祖母の死。トニーの謎の恋人ルーシーのカミングアウト。会社を売ると言い出すトニー。

奇抜なファッションで登場するルーシーだが、買い物依存症だったとは。トニーにアプリや会社を売ったお金が入っても、助けるどころか悪化させてしまう結果になっただろう。無一文になったトニーなら大丈夫かというとかなり不安だが、不完全な2人でいることを選んだ。だがこの先3人でどうするのか、やはりラストは不安が残る。が、物だけではなく、欲や煩悩を捨てた結果ということか。そう考えると多くの現代人に向けてもメッセージを発したラストシーンであった。

 

見終わってから映画情報を調べていて、あれ?と思ったのだが、私が見たいと思っていた映画は100日間の方じゃなくて365日の方だったのかも…。『365日のシンプルライフ』というフィンランドのドキュメンタリーがあるんですね。今度見たいと思う。

比べて考えると100日の〜、というタイトルは365日続けなかったという意味にも取れる。シンプルライフに囚われて、大切な人をなおざりにするのをやめようという意味もあるのかもしれない。

 

この騒動のきっかけとなった賭けの発端となった、社員たちに囲まれたお立ち台で喧嘩をする2人の掛け合いは、もっともっと面白くできるのではないかと思った。日本のお笑い芸人か三谷幸喜にその部分だけ脚本を書かせてみたい。もっと説得力があり、面白おかしい掛け合いができるのではないかと思うと惜しい。

あと、アプリのNANAの声がとても良かった。あんなアプリがあったら買ってしまうな。全体的にドイツ語の響きが大変心地良かった。ベルリンの街並みや部屋のセンスも素敵。物に囲まれているなんて言ってるが、小綺麗である。日本の汚部屋とは比べ物にならない。自分の断捨離には効果ゼロであった。

 

パウルの母親役の女優さん、キリッとしているのに情が深い役をうまく演じていて好きだなと思ったのだが、映画の公式ページで2019年に亡くなっていると書かれており、悲しい気持ちになった。遺作が樹木希林の遺作の『命みじかし、恋せよ乙女』という映画らしいので、そちらも鑑賞してみたい。