snowinbowls’s blog

日本のすみっこぐらし。映画は公開日に上映されないし本は発売日に本屋さんに並びません。

労働者、ときどきロバート・パティンソン 映画『ライトハウス』感想 *ネタバレあり*

 


ライトハウス』(The Lighthouse)  2019年 アメリカ 109分

 

監督 ロバート・エガース

脚本 ロバート・エガース、マックス・エガース

主演者/役名 ロバート・パティンソン/イーフレイム・ウィンズロー

       ウィレム・デフォー/トーマス・ウェイク

 

舞台は1890年代、ニューイングランドの孤島にやって来た2人の灯台守の物語。

まず画面の形に驚く。アナログテレビのような四角い画面。モノクロの、きっともの凄くこだわりのある画づくり。そして不穏な音響。最初は灯台のレンズが廻る音に聴こえたけれど、船の汽笛の音かもしれないし、吹きつける風の音かもしれない。

画面の狭さは見ているうちに気にならなくなって、いつの間にか忘れてしまっていた。見ているこちらも孤島に入り込んでしまったようで、今思うと怖い。

 

この映画を見るのに少し勇気と時間がかかった。

設定とヴィジュアルだけで精神力が削がれそうだから。覚悟して見たので意外と大丈夫だったけれど、もちろん想像を越えた内容なので、衝撃があった。

古参と新参の灯台守。古参のトーマスは軍隊の上官のように高圧的で口うるさい。ロバート・パティンソンが出ているから我慢して見ていたけれど、そうではなかったら見続けるのが苦痛な不快な状況が続く。若くて新入りだから仕方がないにしても、雑用と重労働、危険な仕事ばかりをさせられる。なのに肝心の灯室には鍵をかけられ、そこでの仕事は教えてもらえない。

この物語、普遍的な労働問題を考えさせられた。パワハラ上司が権力を握って肝心な仕事を独占している職場は数多ある。部下は痛めつけられるだけで仕事を覚えられないし、評価もされず病む。職を転々として、ただ穏やかに暮らすこともできない。

この灯台守の仕事は労働期間がはじめから4週間と決まっていて、その期間さえ我慢すれば帰れるし、普通よりも多いお給金が貰えるので我慢もするのだけれど、もちろん物語上帰れるはずもなく、いつ船が来るかも知れず、食糧も住居も失っていき、アルコールに溺れ、追い詰められていく。

時代的にも、海の仕事は現代よりも相当過酷で、体も心も壊してしまうのだろうなと思った。無線も出てこなかったので、通信手段は行き来する船のみなのだろう。

この主人公の2人、お酒を飲むと距離が縮まって休戦状態になるのだけれど、それ以外の時間はものすごい緊張状態で、上映時間の殆どを軽いヒステリーと、身体の奥底から湧き上がる笑いをこらえるせめぎ合いのような精神状態になって、自分でも何だこれと思いながら見ていた。

とにかく言い合いばかりしているふたり、古典演劇の役者かというくらい詩的な言葉回しで捲し立てるトーマスと、最初は無口だったウィンズローが次第に距離を縮め、混ざり合い、二人ともトーマスになり、結局もうひとりのトーマスにはなれなかった関係が興味深かった。

これだけ罵り合いをするとなると、洋画では「f◯ck」とか「f◯ckin'」という言葉をたくさん使うのに、それがなかった。国や時代で使われる言葉が違うんだろうけど、言葉を駆使して感情を伝える姿になんだか感心してしまった。

ウィンズロー役のロバート・パティンソン、口髭と格好と、不満を抱えた演技が上手すぎて、いつものイケメンロブじゃないと思っていたけれど、時々ハッとする美しさを見せる瞬間があって、やっぱりロバート・パティンソンだなって思った。トーマスにも何度かきれいな顔だと言われていて、(だってロブだから…)ってクスッとなった。

そういうトーマスも、やっぱりときどき格好いいウィレム・デフォーになっちゃうので、完全に狂った世界に飲み込まれずに済んで、これはお芝居なんだと、現実に戻って来られて良かった所だと思う。

この映画、いくつかの神話がモチーフになっているようで、大まかでも内容を調べて推察はしてみたのだが、不可解な描写が度々ある。神話も人魚もカモメも、海に関する人智を超えたものが人間を襲い、逃れることなどできない無力さからなのか、最後のウィンズローの表情は笑っているようにも泣いているようにも見えた。